あぁ、桜橋 第2夜 楓viwe

(そろそろネタバレをしていきながら。)




今日もまたお母さんに嫌な事を言ってしまった。
心配してくれているのは分るけど、どうしても自分の感情が抑えられない。
私の気持ちなんて誰にも分らない。
そして今日も、また私は街に出ました。
私の事に干渉しない沢山の人達。世界でたった一人のような気がします。
晴れない気持ちのまま、私は桜橋を渡りました。


くれは「アホか〜、いてもうたろかボケ〜。」


また今日もあの人がいました。初めて会った日とそのまんまの姿で。


くれは「アホか、アホか、ボケぇ〜。ボケぇ〜。」
かえで「ふぅふうふふ」
くれは「あっ、また出た。」
かえで「ふっふぅ 暮葉ちゃん。」
くれは「ちゃん付け止してよ。三つ下でしょ。」
かえで「いやっ、キャラだから。」
くれは「またキャラだ。私トコトンなめられるキャラなのね。」
かえで「またイヤな事あったんですか?」
くれは「まあね。」
かえで「何で関西弁?」
くれは「はい?」
かえで「この橋で上で泣いてる時、いつも関西弁だから。」
くれは「あっ、あ〜ぁ。まあね。」
かえで「東京の人ですよね?」
くれは「うん。   あのね、“アホ”なのよ。」
かえで「分ってますけど。」
くれは「そういう意味じゃなくって。“アホ”って言葉が一番しっくりくるの。」
かえで「アホが?」
くれは「そう。今のこの私の なんともいえないダメさ加減? このありえない感じ?
    なんて言うの? そう、この桜橋の形みたいに、バツの気分。
    これを表す言葉が“アホ”しかないの。“アホ”で、“ボケ”なの。」
かえで「バカじゃダメなんですか?」
くれは「違うのよ〜。なんか、『バカ〜』って言うと、救いが無いっていうか〜、ヘコむじゃない。」
かえで「ヘコんでるから、ここで泣いてるんじゃないんですか?」
くらは「分ってないな〜。ヘコみたくないから泣いてるの。」
かえで「ぅん?」
くれは「泣いて、叫んで、自分の中のグシャグシャしたのを出さないと、
    本気でヘコみそうだから、だから泣いてるの。」
かえで「女心って、複雑ですね〜。」
くれは「複雑なのよ。 だからね、バカって言っちゃうと、言った自分が凄くヤな気分になるの。
    それでヘコんじゃうから。だから“アホ”で、“ボケ”なの。ありえないの。」
かえで「なるほど。  あっ、ジュースでも買って飲みません?」
くれは「   ぅん。」
かえで「暮葉ちゃんは何?」
くれは「 えっ?  ぉ茶 かなぁ?」
かえで「なるほど。」
くれは「あっ、 お金、いいの?」
かえで「おごりますから。」


暮葉の分のお茶が出てきた音


かえで「はいっ。」
くれは「ぁありがと。」
かえで「やさしいんですね。」
くれは「えっ?」


楓の買った飲み物が出てくる音


かえで「暮葉ちゃんは、  優しい。」
くれは「ゃ、優しいんじゃなくて、弱いんだよ。」
かえで「弱くったっていいじゃない。弱くて厳しい人より、弱くて優しい人の方が  ん〜〜、 在り得る感じ。」
くれは「ありえる?」
かえで「うん、暮葉ちゃんは誰も傷つけたくないんだよね?周りの人も、自分も。それはすごくわかる。在り得る。」
くれは「そっか、ありえるか。」


暮葉、缶を開ける


くれは「熱ッ。アツツツッ。」
かえで「(ひき笑い)」
くれは「やっぱ笑われた。」
かえで「キャラですよね〜。(笑」


楓の缶をあける音。


くれは「ねえ、楓は何で笑ってるの?」
かえで「えっ?」
くれは「この橋の上で会うと、いつも笑ってるから。」
かえで「笑ってるのは...   」
くれは「なんで?」
かえで「 悲しい事が    あったから。」
くれは「悲しい事?楽しい事じゃなくて?」
かえで「そういうのって、目を閉じて、初めて見えるから。」
くれは「目を閉じて?」
かえで「まぁいいじゃないですか。私の事は。」
くれは「でもぉ..。」


暮葉の携帯メールの着信音


くれは「あっ、メール。ちょっと待って。あっ、またイタメール?もぉ〜〜。
    あれっ?楓? どこ行った?  楓、どこ行っちゃったの?」


あたりを見回す暮葉


くれは「悲しい事が あったから...。」


「悲しいことがあるから笑う。」ちょっと強がって言ったけれど、
本当は  笑う事しか出来なかったから。
他に何が出来るのか分らなかっただけなんです。
半分程残ったコーヒーの缶は、すっかり冷えてしまっていました。
何となく自分のようだと思えて、怖くなって缶を投げ捨ててしまいました。
あの日、暮葉ちゃんに会わなかったら、今、こんな思いをしなくても済んだのでしょうか?
答えは分りません。