あぁ、桜橋 第4夜 楓viwe


隅田川に架かる桜橋を知っていますか?
それは空の上から見るとバツに見える不思議な橋。
私はこの橋で、暮葉ちゃんに会いました。
今思えば、あんなに泣けるのが羨ましかったのかもしれません。


くれは「アホかボケ〜!水上バス、なんやねんボケ〜!」
かえで「なんやねんって、なんですか?」
くれは「いや、分んないけど。最近あたる事が無いから、水上バスにでもあたっておこうかな?って。」
かえで「あたることがない?」
くれは「うん。 バスケ部もね、なんかあれから肩の力が抜けて、少しずつだけどイイ感じになってきて。」
かえで「ほぉ〜。」
くれは「相変わらず後輩には、なめられ気味だけど。」
かえで「気味?」
くれは「でもいいの、背伸びしてもしょうがないしね。
    私なりに楽しくやれば、見てくれる子は見てくれてるだろうし。」
かえで「おぉ〜、成長しましたね、暮葉ちゃん。」
くれは「ありがと。」
かえで「どういたしまして。」


くれは「ねえ?楓?」
かえで「へぇ?」
くれは「もう一回 聞いていい?」
かえで「聞かなくてもいいじゃないですか?」
くれは「聞くぅ。」
かえで「ふふん、どうぞ。」
くれは「楓ぇ、言ったよね? 悲しい事があるから笑ってるんだ って。」
かえで「うん。」
くれは「楓の悲しい事、 教えて?」
かえで「私の?」
くれは「うん。 楓の悲しい事  知りたい。」
かえで「知ってどうするんですか?」
くれは「知ったら、 楓の悲しい事、 私が笑いとばしてあげる。」
かえで「ぇ?」
くれは「楓の悲しい事で 私も一緒に笑いたい。」
かえで「一緒に?」
くれは「聞いて?例えばの話よ。
    楓がもし男の子にフラレたんだったら、私大笑いしてあげる。
    バカな男につまづいて、ホントに男運最悪ねって。
    楓がもし、受験のことで悩んでいたら、私、大笑いしてあげる。
    どうせ、どこの学校に入っても勉強なんかしないくせにって。
    楓がもし.. 楓がもし、何もかも悲しいんだったら、私は楓の全てを大笑いしてあげる。」
かえで「暮葉ちゃん...。」
くれは「私、笑顔が下手だから、笑うのうまくないから、楓はそれを見て笑っていいよ。
    そしたら、 そしたら、あ〜〜、なんて言ったらいいんだろう?
    私、本とか読んでないからこんな時になんて言ったらいいのか分んないんだけどさ、
    私も楓も この世界に在り得る人になる。 そんな気がする。
かえで「涙)ありえない。」
くれは「えっ?」
かえで「ありえないよ、暮葉ちゃん。私のために、そんな一生懸命で。 私笑えない。ありえないよ。」
くれは「楓...。」
かえで「...あほ。」
くれは「アホ?」
かえで「暮葉ちゃんはアホでボケです。私を泣かせて、ホントに、アホでボケ。」
くれは「言い方違うな〜。 このアホ〜、いてもうたろかボケ〜。って言わないと。ほら川に向かって。」
かえで「アホ〜、い〜てもうたろかボケ〜。」
くれは「違う、違う。アホ〜〜、いてもうたろかボケ〜〜。って、この甲高い声がポイント。ハイッ。」
かえで「アホ〜〜!いてもうたろかボケ〜〜!」
くれは「お〜、イイ感じ。 アホ〜〜〜!!」
かえで「アホ〜〜〜!!」
くれは「ボケ〜〜〜!!」
かえで「暮葉ちゃんのボゲ〜〜〜!!」
くれは「そうそう。って、暮葉ちゃんは余計だから。ちゃん付けだし。」
かえで「笑)」
くれは「笑)」



この日から5ヶ月間、私は精一杯生きました。
暮葉ちゃんと出会った頃は回復の見込みが無い事を聞いた直後でした。
家に居ても、学校に行っても、私を憐れむ目が耐えられなくて、
どこにも居場所が無いように感じていたのもその頃です。
初めて暮葉ちゃんに会ったあの日、私は桜橋から飛び降りるつもりでした。



かえで「暮葉ちゃんが泣いてたおかげで、私飛び降り損ねちゃった。フフフッ。」



暮葉ちゃんは私の代わりに泣いてくれました。
自分の事じゃないのにね。
なんか、それだけで、私はスッキリしました。


私は時々、天国の門のすぐ傍の、雲の端に腰掛けて、下を眺めます。
天国は退屈だし、地上には気になる人がいるから。
ここからだと、桜橋のバツ印がよく見えます。
今日も、そのバツ印の真ん中で人目もはばからず、
空に向かって大声を張り上げてる暮葉ちゃんが見えました。



くれは「アホ〜〜〜!!ボケ〜〜〜!!」
かえで「アホ〜〜〜!!ボケ〜〜〜!!」
くれは「見えるか〜〜?このボケ〜〜〜!!」
かえで「見えるぞ〜〜〜!暮葉ちゃんのボケ〜〜〜!!」
くれは「笑)イイ感じだよ、楓。」



暮葉ちゃん  あなたの笑顔 ちゃんと見えますよ。
暮葉ちゃん  あなたの声 ちゃんと私に届いているよ。
返事は 風に乗せて あなたに送ります。